親愛なるきみへ

最近、調子はどう?

あまり具合が良くないみたいだけど。

寂しいからといって、周りの人たちを責めてはだめだ。

周りは、きみが望むようには動いてはくれないよ。

それは、きみが嫌われているからではなくて、

みんな自分のことで忙しいからだよ。

きみの人生は、悲しいことばかりではないはずだ。

楽しいことだって、たくさんあるはずだ。

悲しみが強すぎて、それがかすれてしまっているだけだ。

だけど、はっきりと目に見える形で証拠を出さないと、

きみは納得しないよね。

こうしてみたらどうだろう。

悲しいことがあったら、左腕をナイフで切るんだ。

悲しみが深ければ深いほど、傷も深くなるんだ。

楽しいことがあったら、右腕をナイフで切るんだ。

喜びが大きければ大きいほど、

傷も深くなるんだ。

ちらかの腕が傷ひとつないきれいなままなんて、

きっとありえない。

悲しみばかりじゃないってことが、理解できると思うよ。

Good Luck.

 

齊藤木 一紗より


親愛なるあなたへ

お手紙ありがとう。とても嬉しいです。

あなたのアドバイス通り、ナイフで印をつけてみました。

の一週間で、私は理解しました。

どんなにささいな苦しみも、

どんなにささいな喜びも、

すべて印をつけていきました。

あなたのおかげで立ち直れそうです。

右腕は見る影もなくなってしまいましたが、

私は今、幸せを感じています。

生きていることに感謝せずにはいられません。

もちろん、あなたにも。

ありがとう。

 

齊藤木 一紗より

ケース0:ツギハギの少女A

全身がツギハギの少女がいた。皮膚ではなく、身体そのものがツギハギなのである。指のサイズは一本一本関節ごとにばらばらで、男性のものもあれば女性のものもある。皮膚の色も様々で、少女をカラフルに彩っている。少女曰く、「世界中の人と繋がりたい」のだという。

少女は幼くして両親を亡くし、預けられた施設でもいじめや虐待を受けていたそうだが、その寂しさが今のこの衝動に繋がっているのだろう。

世界中の人と繋がりたい。

今の時代、ソーシャル・ネットワーキング・サービスが氾濫し、確かに「世界中の人と繋がること」は容易になった。が、少女はそれでは満足しない。

「どんな言葉や映像も電波にのせることができるけれど、心や温もりは、その人の魅力や真の美しさは、電波にのせることができないのよ。わたしが欲しいのは何か、わかるでしょ?」

外見だけでなく、内臓も一部ツギハギだそうだが、少女は障害もなく、ごく普通に暮らしているようだ。現代の医学はここまで進歩しているのか……。

世界中の人間の身体をどのように集めているかは、あえて聞かなかったが、別れ際、少女が「あなたって、想像力豊かで羨ましいわ。頭の中、どうなっているのかしら」と言って以来、一度も連絡を取っていない。

飽和

こうして、ちょっとした文章を書いていると、すぐに飽きてしまう。今、この文字を書いている瞬間も、この話を書くことに飽きている。とにかく飽きっぽい。読書をしていてもすぐに飽きるし、散歩をしていても飽きる。食事も飽きるし、会話も飽きる。恋人にも飽きるし、仕事にも飽きる。考えることにも飽きるし、呼吸をすることにも飽きている。

6.スイの通夜には、クラス全員が参加した。

スイの通夜には、クラス全員が参加した。泣いているのはマキノだけで、他の生徒たちはみんな、唇を固く結んで俯いている。
ヤジタも、涙は出なかった。みんな、泣く資格などない——。
そこに、マキノが来た。
「スイのこと好きだったのに、泣かないなんて、冷たいね」
マキノは、真っ赤に泣き腫らした目を向けてくる。
「泣きたくないわけじゃない。俺だって悲しいよ」
本心だった。 続きを読む 6.スイの通夜には、クラス全員が参加した。

5.ヤジタは午後の授業が始まる前に、スイに早速メールを送った。

ヤジタは午後の授業が始まる前に、スイに早速メールを送った。

〈ヤジタです。マキノから連絡先聞きました。昨日はごめん。直接謝りたいから、あとで電話する〉

授業中、スイの反応が気になって仕方なかった。授業が終わり、休み時間に確認してみたが、返信はなかった。
放課後、部活へ行くため荷物をまとめていると、教室に残っていた男子たちの騒ぐ声が聞こえてきた。 続きを読む 5.ヤジタは午後の授業が始まる前に、スイに早速メールを送った。

4.翌日、ヤジタは部活の朝練で、みんなどこかよそよそしい態度なのが気になった。

翌日、ヤジタは部活の朝練で、みんなどこかよそよそしい態度なのが気になった。気のせいかと思ったが、教室に入ると、何人かはヤジタをちらちらと見てはクスクスと笑う。いよいよ気のせいではない。そのうち男子の一人がヤジタの席へ歩いてきた。
「ヤ、ジ、タ、くーん。昨日、スイとデートしたんだって?」
ヤジタは思わずのけぞった。
「なんの話だよ」
「とぼけんなって。昨日、水族館でおまえらを見かけたってやつが言ってたぞ。おまえ、ガッチガチになっちゃってたって? だっせえの。スイなんか相手にそんな様子じゃ、男としてどーなのよ」 続きを読む 4.翌日、ヤジタは部活の朝練で、みんなどこかよそよそしい態度なのが気になった。

3.ある日、ヤジタは男子に囲まれて漫画やテレビ番組の話題に興じていたが、

ある日、ヤジタは男子に囲まれて漫画やテレビ番組の話題に興じていたが、そのうち「便所行く」と言って廊下に出た。
その瞬間、背後から大きな声が聞こえた。
「ヤジタくん!」
ヤジタは体をこわばらせた。振り返ると、スイが歩いて来るのが見えた。
みんなの視線が、スイとヤジタに集まる。
「今、ちょっと大丈夫?」
スイが笑いかけてくる。 続きを読む 3.ある日、ヤジタは男子に囲まれて漫画やテレビ番組の話題に興じていたが、