黄金

 海の向こうに、黄金の国があるという言い伝えがあった。川や山、城壁、そこに住む人間たちまであらゆるものが黄金だといった。
むかし、その国に侵略者があった。言い伝えのとおりなら黄金が手に入るはずだ。ところが、いざ上陸してみれば、ただの水が流れる川、青々とした山、石灰岩でできた城壁、彼らと同じ姿形の人間……。住人がどこかに黄金を隠し持っているに違いない、地下に黄金の世界へ続く秘密の通路があるのかもしれない——と、侵略者は住人を捕らえ、拷問し黄金の在りかを聞き出そうとした。しかし住人は、何も知らないと泣いて助けを乞う。侵略者は堤防を壊し川を氾濫させ、山に大砲を打ち込み、城壁を叩き壊し、白を切る住人を虐殺した。黄金の国は、半日で壊滅した。
唐突に、地平線に沈む夕陽が、川だった水を、山だった土砂を、城壁だった岩を、住人だった屍を黄金に染めた。黄金となった侵略者たちは動きを止めた。呆然と瞬きをしているうちに、黄金の輝きは消え、周囲は静寂な闇に染まった。

飽和

こうして、ちょっとした文章を書いていると、すぐに飽きてしまう。今、この文字を書いている瞬間も、この話を書くことに飽きている。とにかく飽きっぽい。読書をしていてもすぐに飽きるし、散歩をしていても飽きる。食事も飽きるし、会話も飽きる。恋人にも飽きるし、仕事にも飽きる。考えることにも飽きるし、呼吸をすることにも飽きている。

忘却

君が死ぬのは構わない。だけど、僕を忘れるのだけは許さない。君が死ねば、君は僕を忘れるだろう。僕が死ねば、君は僕を忘れるだろう。それは絶対に許さない。君が死ぬのは構わない。だけど、僕を忘れるのだけは許さない。

6.スイの通夜には、クラス全員が参加した。

スイの通夜には、クラス全員が参加した。泣いているのはマキノだけで、他の生徒たちはみんな、唇を固く結んで俯いている。
ヤジタも、涙は出なかった。みんな、泣く資格などない——。
そこに、マキノが来た。
「スイのこと好きだったのに、泣かないなんて、冷たいね」
マキノは、真っ赤に泣き腫らした目を向けてくる。
「泣きたくないわけじゃない。俺だって悲しいよ」
本心だった。 続きを読む 6.スイの通夜には、クラス全員が参加した。

5.ヤジタは午後の授業が始まる前に、スイに早速メールを送った。

ヤジタは午後の授業が始まる前に、スイに早速メールを送った。

〈ヤジタです。マキノから連絡先聞きました。昨日はごめん。直接謝りたいから、あとで電話する〉

授業中、スイの反応が気になって仕方なかった。授業が終わり、休み時間に確認してみたが、返信はなかった。
放課後、部活へ行くため荷物をまとめていると、教室に残っていた男子たちの騒ぐ声が聞こえてきた。 続きを読む 5.ヤジタは午後の授業が始まる前に、スイに早速メールを送った。

4.翌日、ヤジタは部活の朝練で、みんなどこかよそよそしい態度なのが気になった。

翌日、ヤジタは部活の朝練で、みんなどこかよそよそしい態度なのが気になった。気のせいかと思ったが、教室に入ると、何人かはヤジタをちらちらと見てはクスクスと笑う。いよいよ気のせいではない。そのうち男子の一人がヤジタの席へ歩いてきた。
「ヤ、ジ、タ、くーん。昨日、スイとデートしたんだって?」
ヤジタは思わずのけぞった。
「なんの話だよ」
「とぼけんなって。昨日、水族館でおまえらを見かけたってやつが言ってたぞ。おまえ、ガッチガチになっちゃってたって? だっせえの。スイなんか相手にそんな様子じゃ、男としてどーなのよ」 続きを読む 4.翌日、ヤジタは部活の朝練で、みんなどこかよそよそしい態度なのが気になった。

3.ある日、ヤジタは男子に囲まれて漫画やテレビ番組の話題に興じていたが、

ある日、ヤジタは男子に囲まれて漫画やテレビ番組の話題に興じていたが、そのうち「便所行く」と言って廊下に出た。
その瞬間、背後から大きな声が聞こえた。
「ヤジタくん!」
ヤジタは体をこわばらせた。振り返ると、スイが歩いて来るのが見えた。
みんなの視線が、スイとヤジタに集まる。
「今、ちょっと大丈夫?」
スイが笑いかけてくる。 続きを読む 3.ある日、ヤジタは男子に囲まれて漫画やテレビ番組の話題に興じていたが、

2.昼休み。マキノがオレンジジュースを飲みながらヤジタの席まで来た。

昼休み。マキノがオレンジジュースを飲みながらヤジタの席まで来た。
「ヤジタ、スイのこと、ありがとね」
「あぁ、たまたまだよ」
ヤジタがマキノの方を向く。その視線の先に、マキノが何かを見せてきた。ピンク色のパッケージがかわいらしい、いちごミルク。
「何、これ」
「スイから。ヤジタにお礼だってさ」
「なんでいちごミルク?」 続きを読む 2.昼休み。マキノがオレンジジュースを飲みながらヤジタの席まで来た。

1.十七歳のヤジタは、クラスメートのスイに恋していた。

十七歳のヤジタは、クラスメートのスイに恋していた。スイは背が小さく、地味で大人しいのだが、学年中の男子を夢中にさせる魅力を放っていて、高嶺の花と崇められている。
だが。
「二組のあいつ、ウチのクラスのスイが好きらしいぜ」
「マジかよ。身の程を知れっつうの」
「スイのことマジになる奴なんて、バカしかいないよ」
たとえスイに恋していようとも、 続きを読む 1.十七歳のヤジタは、クラスメートのスイに恋していた。