ISSYA

地獄の底から見上げる景色は
万華鏡のように美しい
踊る光に翻弄されて
酔った蝶は地獄へ戻る

百億の苦行に耐える叫びは
地獄の瘴気にかき消される
吐く息は血の霧となって
蝶の羽を濡らす

地獄の空に浮かぶ蜘蛛の糸
蝶は群がり絡めとられる
銀の糸を身に纏いながら
天の国へと堕ちていく

天の地を這う蛇の
哀れさを嘆く蝶は無し
万華鏡の世界に迎えられた
蝶は幸福の絶頂にあり

狂ったように舞う蝶に
倦みはせぬかと蛇が問う
地獄の底から掴んだ天佑
倦むはずも無しと蝶は言う

久遠の幸福を味わう蝶は
食傷気味に飛び回る
新たな快楽を渇望するにも
天の神は裁可せず

地獄の奴隷は天で迷う
蝶よ　おまえはどこまで堕ちる
どこへ堕ちても
地獄の神の掌の上

力尽きた蝶の雨
天の地を抜け落ちる
押し潰した蛇を道連れにして
地獄の神の元へと還る

天の空から見下ろす景色は
死肉に群がる蛆より醜い
貪る強欲に翻弄されて
酔った蛇は天国へ戻る

百億の寵愛に応える祈りは
天の光に飲み込まれる
笑い声は七色の虹となって
蛇の瞳を惑わす

天の底から浮かぶ蜘蛛の糸
絡まる蝶を蛇が見つめる
銀の鱗を身に纏いながら
天の国へ歓迎する

天の空を舞う蝶の
美しさに見惚れる蛇は無し
万華鏡に弄ばれる蝶
天の神の気まぐれゆえに

病のように這いずる蛇に
倦みはせぬかと蝶が問う
鮮麗な虹　万華鏡の迷宮
倦み尽くしたと蛇は言う

久遠の幸福にまみれる蛇は
食傷気味に這い回る
地獄の底の強欲ですら
もはや羨望の的となる

天の使者は地で迷う
蛇よ　おまえはどこへ向かう
どこへ向かっても
天の神の掌の上

押し潰された蛇の雪崩
地獄の空へと放たれる
力尽きた蝶に抱かれて
天の神から逃げ失せる

地獄の底から見上げる景色は
万華鏡のように美しい
踊る光に翻弄されて
蛇たちは故郷を懐かしむ

未知の世界へ落とされた蛇は
地獄の地を這い冒険を始める
蝶の屍の海を泳いで
我が道筋を作っては去る

見渡す限りの蝶の屍
果てはどこかと這いずり回る
七色の虹を削り落とし
銀の鱗が血に染まる

狂ったように舞う蝶に
倦みはせぬかと蛇が問う
七色の虹に抱かれるためなら
倦むはずも無しと蝶は言う

血塗れの蝶を掘り返す時
蛇たちは時々何かを見つける
滑らかな肌に線状の彫刻
白く煌めく妖艶な誘惑

通りすがりの老いた蝶
かつて本物の海があった
蛇たちは蝶老の懐古に酔い知れ
掘り出し物は貝と知る

天の空で享受できぬ叡智を
地獄の底で手に入れる
遠い過去の寵愛は無用
未来への祈り　同胞を思えば

屍の海に潜む貝は
万華鏡のように美しい
穢れを知らぬ無邪気な蛇よ
逆しまの地平は虚無へと続く

天の空から見下ろす景色は
死肉に群がる蛆より醜い
貪る強欲に翻弄されて
蝶たちは共食いを始める

元の世界へ還りし蝶は
黒き血霧の空へと逃れる
地を這う蛇など関知せず
我が身を案ずるためだけに

見渡す限りの蝶の屍
果ては天にあると飛び回る
七色の虹を思い描きながら
銀の糸を待ち続ける

病のように這いずる蛇に
倦みはせぬかと蝶が問う
虹の枷を捨てられるのなら
倦むはずも無しと蛇は言う

血塗れの空を切り開く時
蝶たちは眼前に何かを見つける
艶やかな繊維に線状の雫
赤く煌めく甘美な誘惑

通りすがりの老いた蝶
かつて天の神となりし同胞があった
蝶たちは蝶老の懐古に酔い知れ
眼前の繊維は蜘蛛の糸と知る

地獄の底で享受できぬ忘却を
天に求め飛び回る
遠い過去の栄華は無用
未来への繁栄　同胞を思えば

血霧の空を漂う糸は
死肉に群がる蛆より醜い
無垢を知りすぎた哀れな蝶よ
静寂な貪欲は虚空へと続く