妄想バコ

他愛ない話。

筋肉のちぎれる音が聞こえます。

弦を弾くように音を奏でます。

ぽろぽろ びんびん

ぽろぽろ びんびん

美しい音色の痛みを子守唄に

今夜も私は不眠症。


‪希死念慮は長年の友人で、私を風にしようとしてくれたり、土に還そうとしてくれたり、海に溶かそうとしてくれたりと、この星の一部となることを望ませてくれていたけれど、近頃は直球に「死にたい」と言うようになってしまったせいで希死念慮から見放されてしまいそうな気がしてならない。‬


夏空よ

空蝉に生きる抜け殻の

私の体を熱く焦がせよ


小学生の頃、好きな男の子がいました。話しかける勇気がなくて、いつも遠くから見ているだけでした。私には、親友と呼べるほど仲良しだった女の子が二人いましたが、どちらも彼のことが好きだったようです。

ある日、どちらかの子が、どちらかの子を階段から突き落としたのを見ました。落ちた方の子が、苦しそうにうめいているのを見て怖くなった私は、逃げました。落とした方の子がどんな表情をしていたかは、わかりません。落とされた方の子は、その後病院へ運ばれたと聞きました。

放課後、落とした方の子が私のところへ来て、こう言いました。

「見てたあんたも共犯だからね。誰にも言っちゃだめだよ。もし誰かに言ったら、あんたに命令されてやったって言うから」と。

そして、『私はあなたを裏切らないことを誓います。』と書かれた誓約書に拇印を押すことを強要されました。

中学生の頃、その子と同じクラスになり、私は彼女からいじめのターゲットにされていました。理由はわかりません。好きだった男の子にふられてしまったと聞きましたが、その腹いせだったのでしょう。

しかし、クラスのみんなも、先生たちも、誰もいじめに気づいていませんでした。

その子は、事あるごとに「誰にも言っちゃだめだよ。言ったらどうなるかわかってるよね」と笑って言っていました。

そして、『私はあなたを裏切らないことを誓います。』と書かれた誓約書に拇印を押すことを強要されました。

高校生になり、小学校の同窓会がありました。そこで、あのとき階段から突き落とされた子が亡くなったという話を聞きました。私は、罪悪感でいっぱいになりました。突き落としたあの子は、どう思っていたのでしょう。

帰宅後、同窓会の余韻にひたるため、卒業アルバムを探していると、たくさんの誓約書が出てきました。当時の恐怖が蘇ってきました。私は、誓約書を放り投げようとした時に、拇印を、見てしまったのです。

あの子の拇印と、私の拇印が並んで押されているはずなのに、どちらも同じ指紋でした。どの誓約書も、私の指紋だけが並んでいるのです。あの子のしるしが、あるはずなのに。どうして?

そして、私はすべてを理解しました。

遺書にすべてを書いて、最初で最後の裏切りをしようと思います。『あの子』と『私』への、裏切りを。


ある人が、赤は情熱の色だと言っていた。ある人というのは、まぁ、僕の愛していた女性なんだけど。昔の話さ。

彼女は赤が好きで、着る服はいつもどこかに赤をしのばせていた。帽子、靴、爪、ストール、上着、ワンピースなど、挙げたらきりがない。

「いつも赤を身につけていると、気分が高揚してくるの。なんでもできそうな気がしてくるの」

彼女は、時々そんなことを興奮気味に語った。僕は、そんな彼女が好きだった。彼女は、そんな僕の兄を、好きだった。

ある日、彼女は僕に言った。

「ねぇ、あなたの血を分けてくださらない?」

愛する彼女のためならと、僕は二つ返事で引き受けた。何のために必要なのかさえ聞く事もせず、毎日、腕に赤い注射針の跡が増えていくのを眺めていた。筒に、真っ赤な僕の血が溜まっていくのが快感で、確かに赤は情熱の色だな、と満足していた。

数日経った頃、兄が突然倒れた。起き上がることすら困難な状況で、彼女は献身的に兄の面倒を見ていた。その間、彼女は忘れていたのか、僕の血は抜かれないまま日々は過ぎた。腕の注射針の跡が黄色くなるまでほったらかされた僕は、兄への嫉妬で満ちていた。

やがて、兄の体調が良くなり、彼女の看病がなくとも動けるようになってきた頃、彼女が僕の血を求めた。

誰にも知られない、秘密の営みが再開される。彼女を独占できる、唯一の時間。僕は、束の間の優越感に浸る。情熱の、赤い液体に、浸る。

またしばらくして、兄が体調を崩し、倒れた。彼女があいつの看病をする。幸せそうに。行き場のなくなった僕の血は、ぐるぐると身体中を駆け回る。嫉妬の炎で煮えたぎる僕の血は、あいつへの妬みが凝縮されてドロドロになっているだろう。

ここで、僕は気づいてしまった。生まれてから特に病気もせず、健康体で生きてきたあいつが、この短期間で二度も倒れたのだ。

あいつが倒れ、彼女が看病する。その間、僕の血は抜かれなくなり、あいつの体調が良くなった途端に、彼女は僕の血を求める。そして、またあいつが倒れ、彼女が看病し、僕の血は抜かれなくなった。

僕の血と、あいつの体調が、何か関係しているのは明らかだった。そういえば、彼女はおまじないが好きだったような気もする。あいつの看病をする彼女は、実に幸せそうだ。僕には見せたことのない表情で。

あいつの体は僕の血でできている。直感で、そう感じた。

あいつの体調が良くなり、また彼女が僕の血を求める。僕の唯一の幸福。だけど、彼女がまたあいつのもとへ行くことは、僕にとっては不幸だ。あいつさえいなければ、と願う。あいつがいなくなったら、彼女は僕の血を求めるだろうか。わからない。

彼女が、僕の血を抜いた。今日の血は、いつにも増して、色が濃かったように思う。

その分、僕は深く深く、幸福に浸った。

翌日、あいつが倒れ、そのまま帰らぬ人となった。彼女は「こんなはずじゃなかったのに」と取り乱し、毎日泣いた。それ以降、彼女が僕の血を求めることはなかった。

ある日、彼女は身体中の毛と爪を赤く染め、全身赤い服で、泣きはらして真っ赤な目を開けて死んでいた。

赤は情熱の色だと彼女は言った。それを証明するかのように、あいつの墓の上で死んでいた。僕の、情熱的な赤い血は、身内を殺し、彼女を不幸にした。

赤は情熱の色だと彼女は言った。けれど、僕にとっては罪の色。


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