小学生の頃、好きな男の子がいました。話しかける勇気がなくて、いつも遠くから見ているだけでした。私には、親友と呼べるほど仲良しだった女の子が二人いましたが、どちらも彼のことが好きだったようです。
ある日、どちらかの子が、どちらかの子を階段から突き落としたのを見ました。落ちた方の子が、苦しそうにうめいているのを見て怖くなった私は、逃げました。落とした方の子がどんな表情をしていたかは、わかりません。落とされた方の子は、その後病院へ運ばれたと聞きました。
放課後、落とした方の子が私のところへ来て、こう言いました。
「見てたあんたも共犯だからね。誰にも言っちゃだめだよ。もし誰かに言ったら、あんたに命令されてやったって言うから」と。
そして、『私はあなたを裏切らないことを誓います。』と書かれた誓約書に拇印を押すことを強要されました。
中学生の頃、その子と同じクラスになり、私は彼女からいじめのターゲットにされていました。理由はわかりません。好きだった男の子にふられてしまったと聞きましたが、その腹いせだったのでしょう。
しかし、クラスのみんなも、先生たちも、誰もいじめに気づいていませんでした。
その子は、事あるごとに「誰にも言っちゃだめだよ。言ったらどうなるかわかってるよね」と笑って言っていました。
そして、『私はあなたを裏切らないことを誓います。』と書かれた誓約書に拇印を押すことを強要されました。
高校生になり、小学校の同窓会がありました。そこで、あのとき階段から突き落とされた子が亡くなったという話を聞きました。私は、罪悪感でいっぱいになりました。突き落としたあの子は、どう思っていたのでしょう。
帰宅後、同窓会の余韻にひたるため、卒業アルバムを探していると、たくさんの誓約書が出てきました。当時の恐怖が蘇ってきました。私は、誓約書を放り投げようとした時に、拇印を、見てしまったのです。
あの子の拇印と、私の拇印が並んで押されているはずなのに、どちらも同じ指紋でした。どの誓約書も、私の指紋だけが並んでいるのです。あの子のしるしが、あるはずなのに。どうして?
そして、私はすべてを理解しました。
遺書にすべてを書いて、最初で最後の裏切りをしようと思います。『あの子』と『私』への、裏切りを。