夢思変


第一部


地獄の底から見上げる景色は    天の空から見下ろす景色は
万華鏡のように美しい       死肉に群がる蛆より醜い
踊る光に翻弄されて        貪る強欲に翻弄されて
酔った蝶は地獄へ戻る       酔った蛇は天国へ戻る

百億の苦行に耐える叫びは     百億の寵愛に応える祈りは
地獄の瘴気にかき消される     天の光に飲み込まれる
吐く息は血の霧となって      笑い声は七色の虹となって
蝶の羽を濡らす          蛇の瞳を惑わす

地獄の空に浮かぶ蜘蛛の糸     天の底から浮かぶ蜘蛛の糸
蝶は群がり絡めとられる      絡まる蝶を蛇が見つめる
銀の糸を身に纏いながら      銀の鱗を身に纏いながら
天の国へと堕ちていく       天の国へ歓迎する

天の地を這う蛇の         天の空を舞う蝶の
哀れさを嘆く蝶は無し       美しさに見惚れる蛇は無し
万華鏡の世界に迎えられた     万華鏡に弄ばれる蝶
蝶は幸福の絶頂にあり       天の神の気まぐれゆえに

狂ったように舞う蝶に       病のように這いずる蛇に
倦みはせぬかと蛇が問う      倦みはせぬかと蝶が問う
地獄の底から掴んだ天佑      鮮麗な虹 万華鏡の迷宮
倦むはずも無しと蝶は言う     倦み尽くしたと蛇は言う

久遠の幸福を味わう蝶は      久遠の幸福にまみれる蛇は
食傷気味に飛び回る        食傷気味に這い回る
新たな快楽を渇望するにも     地獄の底の強欲ですら
天の神は裁可せず         もはや羨望の的となる

地獄の奴隷は天で迷う       天の使者は地で迷う
蝶よ おまえはどこまで堕ちる   蛇よ おまえはどこへ向かう
どこへ堕ちても          どこへ向かっても
地獄の神の掌の上         天の神の掌の上

力尽きた蝶の雨          押し潰された蛇の雪崩
天の地を抜け落ちる        地獄の空へと放たれる
押し潰した蛇を道連れにして    力尽きた蝶に抱かれて
地獄の神の元へと還る       天の神から逃げ失せる

 

 

 


第二部


地獄の底から見上げる景色は    天の空から見下ろす景色は
万華鏡のように美しい       死肉に群がる蛆より醜い
踊る光に翻弄されて        貪る強欲に翻弄されて
蛇たちは故郷を懐かしむ      蝶たちは共食いを始める

未知の世界へ落とされた蛇は    元の世界へ還りし蝶は
地獄の地を這い冒険を始める    黒き血霧の空へと逃れる
蝶の屍の海を泳いで        地を這う蛇など関知せず
我が道筋を作っては去る      我が身を案ずるためだけに

見渡す限りの蝶の屍        見渡す限りの蝶の屍
果てはどこかと這いずり回る    果ては天にあると飛び回る
七色の虹を削り落とし       七色の虹を思い描きながら
銀の鱗が血に染まる        銀の糸を待ち続ける

狂ったように舞う蝶に       病のように這いずる蛇に
倦みはせぬかと蛇が問う      倦みはせぬかと蝶が問う
七色の虹に抱かれるためなら    虹の枷を捨てられるのなら
倦むはずも無しと蝶は言う     倦むはずも無しと蛇は言う

血塗れの蝶を掘り返す時      血塗れの空を切り開く時
蛇たちは時々何かを見つける    蝶たちは眼前に何かを見つける
滑らかな肌に線状の彫刻      艶やかな繊維に線状の雫
白く煌めく妖艶な誘惑       赤く煌めく甘美な誘惑

通りすがりの老いた蝶       通りすがりの老いた蝶
かつて本物の海があった      かつて天の神となりし同胞があった
蛇たちは蝶老の懐古に酔い知れ   蝶たちは蝶老の懐古に酔い知れ
掘り出し物は貝と知る       眼前の繊維は蜘蛛の糸と知る

天の空で享受できぬ叡智を     地獄の底で享受できぬ忘却を
地獄の底で手に入れる       天に求め飛び回る
遠い過去の寵愛は無用       遠い過去の栄華は無用
未来への祈り 同胞を思えば    未来への繁栄 同胞を思えば

屍の海に潜む貝は         血霧の空を漂う糸は
万華鏡のように美しい       死肉に群がる蛆より醜い
穢れを知らぬ無邪気な蛇よ     無垢を知りすぎた哀れな蝶よ
逆しまの地平は虚無へと続く    静寂な貪欲は虚空へと続く