6.スイの通夜には、クラス全員が参加した。

スイの通夜には、クラス全員が参加した。泣いているのはマキノだけで、他の生徒たちはみんな、唇を固く結んで俯いている。
ヤジタも、涙は出なかった。みんな、泣く資格などない——。
そこに、マキノが来た。
「スイのこと好きだったのに、泣かないなんて、冷たいね」
マキノは、真っ赤に泣き腫らした目を向けてくる。
「泣きたくないわけじゃない。俺だって悲しいよ」
本心だった。
「他の子から聞いたんだけど、あたしが休んだ日に、あんた、スイの前で酷いこと言ったんだってね」
ヤジタは何も言えなかった。いつかマキノの耳に入るだろうと思っていたが、最悪のタイミングだ。
「あんたが、男子にスイの悪口をやめるように言った時、ちょっと見直したんだよ。でも、あんたを信じたあたしが馬鹿だった。あんたも、他の奴と同じだった」
マキノは直接口にこそ出さなかったが、「スイが死んだのは、あんたのせいだ」と言って、女子の群れの中に戻って行った。
式場で、親族と思われる女性が二人、ひそひそと立ち話をしていた。たまたまそばにいたヤジタの耳に、その内容が入ってきた。
スイの死亡状況の話だった。
場所は自宅の浴室だった。仰向けの状態で、上半身が水の張られた浴槽内に沈んでいたらしい。手には携帯電話を握っていて、浴槽内には、飼っていた熱帯魚が泳いでいたという。その状況の異常さに、二人は嫌悪感を示しているようだったが、なんとなく、ヤジタには腑に落ちるものがあった。
ヤジタは、水族館でのことを思い出していた。エスカレーターに横たわったスイの、あの表情は、彼女の死に顔だったのだろうか。
スイは自殺したのだ。
ヤジタは、自分を責めた。

学校では、誰もスイの話をしなかった。女子は大人しくしつつも、割といつも通りの様子だったが、男子はみんな口数少なく、元気がなかった。
ヤジタとマキノは、昼休みをそれぞれひとりで過ごすようになった。
ヤジタは、購買でいちごミルクを買い、屋上に出るドアの前で昼飯を食べる。マキノがどこにいるかはわからないが、きっと自分と同じように、彼女なりの方法でスイとの思い出に浸っているのだろう、と思った。

そうやって月日が流れて、年が明けた。
みんなが、ようやく自分たちの生活を取り戻し始めた頃、ヤジタは夢を見た。
野球の試合中、ヤジタはセンターフライを捕る体勢になっていた。
その見事な青空の中で、ボールが突然、動きを止めたように見えた。遠近感を失ったかと焦ったが、そうではなく、本当に止まっていて、そのうちボールが左右にふわふわと泳ぎ始めた。呆気にとられながら見つめていると、いつの間にかボールは一匹のクラゲになっていて、ヤジタの方へ、すいすいと泳いで近づいてくる。真っ白に輝く透明なクラゲは、ヤジタの目の前まで来ると喋りだした。
「ヤジタくん、久しぶり」
スイの声だった。
ヤジタは、驚くと同時に胸が詰まった。
「ねぇ見て。私、クラゲに生まれ変わったの。きれい?」
そう言って、クラゲはくるくると踊った。
「あぁ、すごくきれいだ」
ヤジタの目から涙がこぼれた。
「ヤジタくん、私、ヤジタくんのこと好きだったよ。仲良くなれて嬉しかった。幸せだった。だから、もう自分を責めたりしないで」
そして、クラゲはヤジタを包んだ。
暖かくて柔らかい光の中で、ヤジタは目を覚ました。

登校すると、ヤジタは興奮気味にマキノに声をかけた。
「話したいことがあるから、昼休みに屋上の前のドアのところにいて」
マキノは嫌そうな顔をしていたが、昼休みにヤジタがいちごミルクを買って屋上の前の扉へ行くと、ちゃんと待っていてくれた。
ヤジタは、昨夜見た夢の話をした。自分はずっと後悔して苦しんでいたけれど、ようやくスイに許されたから、これで前を向いて歩いていける、と。
マキノも喜んでくれると思ったが、期待に反してその反応は冷たかった。
「あんたたちみんな、馬鹿じゃないの」
みんな? ヤジタは困惑した。
「他の男子も同じこと言ってきたよ。時期も夢の内容もそれぞれ違うけど、全員、スイに『あなたのことが好きだった。もう自分を責めたりしないで』って言われたんだってさ。それ、スイが夢の中に出てきたんじゃなくて、あんたたちが勝手に頭の中で作り上げた理想でしょ」
マキノの目に涙が浮かぶ。唇が震え、顔が赤くなっていく。
「なんなのよ。散々傷つけた挙げ句に、都合良く勝手に区切りを作って、そうやってみんなスイのこと忘れていくんだよ。くだらない。もううんざり。二度と聞きたくない」
あたしは絶対に許さない。
マキノはそう言い捨てて、階段を降りて行った。