ケース0:ツギハギの少女A

全身がツギハギの少女がいた。皮膚ではなく、身体そのものがツギハギなのである。指のサイズは一本一本関節ごとにばらばらで、男性のものもあれば女性のものもある。皮膚の色も様々で、少女をカラフルに彩っている。少女曰く、「世界中の人と繋がりたい」のだという。

少女は幼くして両親を亡くし、預けられた施設でもいじめや虐待を受けていたそうだが、その寂しさが今のこの衝動に繋がっているのだろう。

世界中の人と繋がりたい。

今の時代、ソーシャル・ネットワーキング・サービスが氾濫し、確かに「世界中の人と繋がること」は容易になった。が、少女はそれでは満足しない。

「どんな言葉や映像も電波にのせることができるけれど、心や温もりは、その人の魅力や真の美しさは、電波にのせることができないのよ。わたしが欲しいのは何か、わかるでしょ?」

外見だけでなく、内臓も一部ツギハギだそうだが、少女は障害もなく、ごく普通に暮らしているようだ。現代の医学はここまで進歩しているのか……。

世界中の人間の身体をどのように集めているかは、あえて聞かなかったが、別れ際、少女が「あなたって、想像力豊かで羨ましいわ。頭の中、どうなっているのかしら」と言って以来、一度も連絡を取っていない。

飽和

こうして、ちょっとした文章を書いていると、すぐに飽きてしまう。今、この文字を書いている瞬間も、この話を書くことに飽きている。とにかく飽きっぽい。読書をしていてもすぐに飽きるし、散歩をしていても飽きる。食事も飽きるし、会話も飽きる。恋人にも飽きるし、仕事にも飽きる。考えることにも飽きるし、呼吸をすることにも飽きている。

忘却

君が死ぬのは構わない。だけど、僕を忘れるのだけは許さない。君が死ねば、君は僕を忘れるだろう。僕が死ねば、君は僕を忘れるだろう。それは絶対に許さない。君が死ぬのは構わない。だけど、僕を忘れるのだけは許さない。

6.スイの通夜には、クラス全員が参加した。

スイの通夜には、クラス全員が参加した。泣いているのはマキノだけで、他の生徒たちはみんな、唇を固く結んで俯いている。
ヤジタも、涙は出なかった。みんな、泣く資格などない——。
そこに、マキノが来た。
「スイのこと好きだったのに、泣かないなんて、冷たいね」
マキノは、真っ赤に泣き腫らした目を向けてくる。
「泣きたくないわけじゃない。俺だって悲しいよ」
本心だった。Continue reading “6.スイの通夜には、クラス全員が参加した。”

5.ヤジタは午後の授業が始まる前に、スイに早速メールを送った。

ヤジタは午後の授業が始まる前に、スイに早速メールを送った。

〈ヤジタです。マキノから連絡先聞きました。昨日はごめん。直接謝りたいから、あとで電話する〉

授業中、スイの反応が気になって仕方なかった。授業が終わり、休み時間に確認してみたが、返信はなかった。
放課後、部活へ行くため荷物をまとめていると、教室に残っていた男子たちの騒ぐ声が聞こえてきた。Continue reading “5.ヤジタは午後の授業が始まる前に、スイに早速メールを送った。”

4.翌日、ヤジタは部活の朝練で、みんなどこかよそよそしい態度なのが気になった。

翌日、ヤジタは部活の朝練で、みんなどこかよそよそしい態度なのが気になった。気のせいかと思ったが、教室に入ると、何人かはヤジタをちらちらと見てはクスクスと笑う。いよいよ気のせいではない。そのうち男子の一人がヤジタの席へ歩いてきた。
「ヤ、ジ、タ、くーん。昨日、スイとデートしたんだって?」
ヤジタは思わずのけぞった。
「なんの話だよ」
「とぼけんなって。昨日、水族館でおまえらを見かけたってやつが言ってたぞ。おまえ、ガッチガチになっちゃってたって? だっせえの。スイなんか相手にそんな様子じゃ、男としてどーなのよ」Continue reading “4.翌日、ヤジタは部活の朝練で、みんなどこかよそよそしい態度なのが気になった。”

3.ある日、ヤジタは男子に囲まれて漫画やテレビ番組の話題に興じていたが、

ある日、ヤジタは男子に囲まれて漫画やテレビ番組の話題に興じていたが、そのうち「便所行く」と言って廊下に出た。
その瞬間、背後から大きな声が聞こえた。
「ヤジタくん!」
ヤジタは体をこわばらせた。振り返ると、スイが歩いて来るのが見えた。
みんなの視線が、スイとヤジタに集まる。
「今、ちょっと大丈夫?」
スイが笑いかけてくる。Continue reading “3.ある日、ヤジタは男子に囲まれて漫画やテレビ番組の話題に興じていたが、”

2.昼休み。マキノがオレンジジュースを飲みながらヤジタの席まで来た。

昼休み。マキノがオレンジジュースを飲みながらヤジタの席まで来た。
「ヤジタ、スイのこと、ありがとね」
「あぁ、たまたまだよ」
ヤジタがマキノの方を向く。その視線の先に、マキノが何かを見せてきた。ピンク色のパッケージがかわいらしい、いちごミルク。
「何、これ」
「スイから。ヤジタにお礼だってさ」
「なんでいちごミルク?」Continue reading “2.昼休み。マキノがオレンジジュースを飲みながらヤジタの席まで来た。”

1.十七歳のヤジタは、クラスメートのスイに恋していた。

十七歳のヤジタは、クラスメートのスイに恋していた。スイは背が小さく、地味で大人しいのだが、学年中の男子を夢中にさせる魅力を放っていて、高嶺の花と崇められている。
だが。
「二組のあいつ、ウチのクラスのスイが好きらしいぜ」
「マジかよ。身の程を知れっつうの」
「スイのことマジになる奴なんて、バカしかいないよ」
たとえスイに恋していようとも、Continue reading “1.十七歳のヤジタは、クラスメートのスイに恋していた。”

闇を照らす光は、希望か、絶望か

何故かは分からないが、真っ暗闇の中で、首から下が地中に埋まっていて、身動きがとれない。最初は、足首までだった。だから、このぐらい平気だと軽く見ていたのが間違いだった。前に進まなければともがいていたら、いつのまにか、下半身がまるまる埋まっていた。これは本格的に危ないかもしれないと考え、さらにもがいた結果がこれだ。もがこうにももがけない。体は疲弊し、首も回らない。もう、何年この状態でいるのか。この暗闇の主になった気分だ。

そう、私は、この暗闇の主だ。

そう思ったら、気分が楽になった。この暗闇を支配しているのは、私だ。慣れてしまえば、心地良いではないか。

息苦しくなることもある。時々、誰かがやって来て救い出してくれないかと期待することもある。けれど、そんなことはすぐにどうでもよくなる。

もう、私はこれで完成している。今更変える気にはならない。

あるとき、この暗闇の中で、光の筋が見えて、すぐに消えた。またあるとき、再び光の筋が見えて、すぐに消えた。二度目の光は、少しだけこちらに近づいていたようだ。何度か、この光は現れては消え、現れては消えを繰り返していた。光は、近くまで来たかと思えば、遠くへ行くこともあった。次はどこを照らすのだろう。

退屈な暗闇の中で、光のダンスは案外、私の心を刺激した。こういうのも悪くない。私は娯楽として、それを楽しむようになっていた。

その日も、いつものように光の筋が現れ、地面を照らした。

そこには、人の頭があった。

私は、後頭部が痺れた! この闇にいるのは、私だけではなかったのか! 頭上から降り注ぐ光に、その頭はしばらく呆然としていたようだが、突如、断末魔の叫び声をあげて消えた。同時に、光の筋も消え去った。

いまだかつて見たことのない光景に、私は唖然としていた。

また、近くで光の筋が見えた。私は心臓が縮み上がった。そこには人の頭などなく、ただ地面があるだけだった。

それから、光の筋は時々ぽっと現れ、地面を照らしては消えていた。

そして、再び「それ」は起こった。

少し遠くだったが、地面にはっきりと黒いまるい塊が見えた。そして、断末魔の叫びが聞こえ、消えた。

「逃げなければ」と、思った。私も、いつあの光に照らされるかわからない。

私はもがいた。久しく動かしていなかった体を死ぬ気で動かしたが、体がすっかり石のようになっていて動かない。その間も、光の筋は現れては消えていた。光は現れるたびに、私に近づいているような気がした。

そして、とうとう、光は私を照らした!

もうおしまいだと絶望した、その瞬間、私の頭は勢いよく地面に吸い込まれ、そのまま、再び暗闇の中へ、ひたすら下へ下へ落ちていった——。